地の塩、世の光

師走は慌ただしいですね。今年一年を振り返る時間も欲しいものです。本プロジェクトに関わった札幌市立大学の主力メンバーの学生は卒業制作、修了制作のまっただ中です。どんな作品を見せてくれるのか楽しみです。学生の柔らかな感性のお話もブログに載せたいのですが、しばらくはアートプロデューサーの上遠野敏とアートマネージャーの伊東奈美が今後も話題提供していきたいと思いますのでお付き合いください。

三笠や岩見沢方面から高速道路で札幌に近くなると、平地が左右に開けて西側の山々のシルエットが屏風のように迫ってきます。斜め手前の藻岩山が見えると我が家に帰って来たと安堵します。南から樽前山、恵庭岳、空沼岳、札幌岳・・手稲山と積丹の方までシルエットが続き、蒼き山並みを背景に雲の切れ間から射す夕方の光の筋が放射状に地上に降り注ぐ光景を見ることがあります。放射状のそれぞれの光線の交点を結ぶと太陽がすぐ近くにあるような錯覚を起こします。雲の切れ間から差す光線を「薄明光線」や「天使のはしご」、「天使の階段」と言うそうです。

その天使のはしごを作品にしたのが今村育子さんの「さしこむ光」です。今村さんはこれまで四角いスリットのフリンジから射し込む光や扉の隙間やカーテンの裾から漏れる光などをモチーフにインスタレーション作品(空間そのものを取り込んだ仮設の作品)を制作しています。この天使のはしごは朝から夕方まで光の位置はほとんど変わらずに、清くやわらかな光を床に落としています。ホッパー2階の屋根が破れて光を取り入れる開口部と石炭を落とす穴の交点が、水平から70°で直射日光ではない散乱の光をピンスポットで床に落としています。アートが美術だった時代にアトリエは光が一定な北向きに造られた、そんな話を思いだしました。

今村さんは、なんと鋭敏な感覚の持ち主なのでしょう。場に寄り添いながら静かに対話を繰り返して、優れた感性を最小限度のコメントで示してします。その上、炭鉱の積み出しホッパーは、閉山後、寒住プレハブという会社の団地用壁材コンクリートパネルの製造の時代、生コン製造のホッコンの時代と上書きれた場の歴史も黒い油にまみれた金属のバケツが物語っています。
浮遊するバケツは炭鉱遺産のその後の宙吊りの状態にも似ていますね。バケツの中には薄く水が張られて天空を映しだしています。井の中の蛙大海を知らず、されど天空の高さを知る。札幌の若手作家の力量は確実に伸びています。世界に伍する時代が来ると信じています。 

「地の塩」「世の光」のように人の心を純化して清める存在であり、灯のように導く光のようなお話でした。

上遠野敏(アートプロデューサー)